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名古屋地方裁判所 昭和49年(ワ)2485号 判決

原告

大野信廣

右訴訟代理人弁護士

伊神喜弘

山本秀師

平野保

被告

大同メタル工業株式会社

右代表者代表取締役

住田明治

右訴訟代理人弁護士

片山欽司

初瀬晴彦

主文

一  原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

主文と同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告は、主として自動車関係の平軸受け(メタル)の製造販売を目的とし、従業員約一、八〇〇名を有する資本金八億円の株式会社であり、名古屋市に本社及び営業所を有し、工場として名古屋工場、犬山第一、同第二各工場、前原工場、岐阜工場等七工場を有する。

2  原告は、昭和四二年六月一日、被告会社に雇用されて、当初名古屋工場に配属され、昭和四三年四月一日、試用期間終了後も引続き同工場にて勤務したのち、同年一一月二六日、当時の犬山工場機械第二班に配転され、三か月後仕上班に配置換えされ、右犬山工場が昭和四五年三月ころ、犬山第一工場と犬山第二工場とに分離してからは犬山第二工場仕上班所属となり、さらに昭和四七年三月、右仕上班の廃止に伴ない再び右機械第二班に配置されて稼働していたものである。

3  被告は、昭和四七年八月三一日、原告に対し「貴殿は就業規則第九二条第八号ならびに同第九三条第四号および第六号に違反する行為がありましたので労使人事委員会および中央労使協議会の意見に基づいて同第二三条第六号を適用し、労働基準法第二〇条の定めによって平均賃金日額三〇日分を支給して下記のとおり解雇します。

解雇年月日 昭和四七年八月三一日」と記載した解雇通知書を交付し、解雇の意思表示(以下「本件解雇」という)をなした。

4  しかし、本件解雇は後述のとおり無効であって、原告は依然として被告に対し雇用契約上の権利を有するにもかかわらず、被告は右解雇を有効として原告を従業員として扱わない。

よって、原告は被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める。

二  原告の請求原因に対する被告の認否

請求原因1ないし3の事実及び同4のうち、被告が本件解雇を有効として原告を従業員として扱わないことは認める。その余は争う。

三  被告の主張

1(一)  原告は、昭和四三年末ころから犬山及び小牧地区の反戦グループと親交を重ねてきたものであるが、昭和四五年八月三〇日、被告本社食堂において開催された大同メタル労働組合(以下「組合」という)定期大会当日、かねて親交のあった反戦グループの訴外座間俊太郎、同山田明、同田尻博、同加藤倫教、同寺林真喜江ら(この内加藤は、後に浅間山荘事件、寺林は連合赤軍リンチ殺人事件に関与現在裁判中)に依頼し、「執行部打倒、組合再建労働者会議」の名のもとに、組合執行委員長野末進、同書記長加藤由治は会社の手先で組合を裏切っているから当選させてはならない旨記載されたビラ数百枚(〈証拠略〉)を、午前八時四〇分ころから同一〇時二〇分ころまで、被告本社正門付近路上で組合定期大会入場者に配布させ、同時に同内容のマイク放送を前記道路上からスピーカーを前記食堂に向けて行わせ、右野末、加藤両名を誹謗すると共に、右定期大会の正常な運営を阻害した。

(二)  原告は、昭和四六年三月ころから昭和四七年五月末ころまでの間約二〇回に亘り工場委員会あるいは大同メタル工場委員会の名のもとに、被告本社正門横の被告社名表示板、右正門近くのコンクリート塀、犬山第一工場、犬山第二工場、前原工場及び岐阜工場付近の各電柱、会社案内掲示板、橋桁等に「野末やめろ恥を知れ」、「ダラ幹野末グループ反対」等の特定個人を誹謗侮辱したビラ、また「生産をかく乱せよ」等被告の生産体制の破壊を目的としたビラ(〈証拠略〉)を貼付した。

(三)  原告は、昭和四六年八月ころから同年九月ころまでの間に被告犬山第二工場第二製造課の職場内で「生産点、支配秩序のマヒ、その持続化」、「地方赤軍の拡大を通じて主力赤軍を拡大せよ」、「オヤジ(重役)恥を知れ」等と記載されたビラ百数十枚(〈証拠略〉)を従業員に配布し、職場秩序破壊を目的とした行為をなした。

(四)  原告は、昭和四六年八月末ころ、前記寺林らから依頼され、栃木県真岡市猟銃強奪事件で指名手配中の連合赤軍幹部坂口弘、同永田洋子を右事件の犯人であることを知りながら、犬山市羽黒南郷所在の犬山反戦グループのアジトにかくまい、同四七年八月三日、右行為をなしたとの嫌疑で逮捕された。

(五)  右逮捕の事実はNHKテレビ、中日新聞、朝日新聞、毎日新聞、名古屋タイムズ、東京新聞等に広く報道され、特に、中日新聞、朝日新聞、東京新聞には原告が被告の従業員であることが明らかにされた。

被告は、主取引先たる日産、トヨタ、日野等の各自動車会社に対し完全な受注生産方式によって取引をなしているものであるが、従業員に連合赤軍と関係する者がいたという右報道は、これらの者の妨害により被告の生産活動が円滑に行なわれず、品質、納期に重大な影響を与えるのではないかとの危倶を右取引先に与えることになり、これら取引先から問い合わせが殺到し、被告の名誉、信用が著しく毀損されたし、また、学校経由の求人も、応募者が半減するなど一般市民に対する対外的信用も著しく失墜させた。

(六)  なお、原告は直属上司等から再三注意を受けていたにもかかわらず、他の従業員に比べ極めて遅刻欠勤が多くまた、業務能率も通常の従業員が一日四、〇〇〇個程度加工するのに、原告は二、八〇〇個ないし三、〇〇〇個であり、製品が規格公差から外れるものが一五%ないし二〇%あるので、上司が再三注意するもあらたまらなかった。従って、原告の勤務成績の査定は、A・A’・B・B’・C・C’・D・D’・Eの九段階評価中、常時最低に属するC’ないしEにとどまっていた。

2(一)  被告会社の就業規則には、別紙のとおりの規定が存するところ、前記1(一)記載のビラの配付及びマイク放送を行なわせた行為は右就業規則九二条八号に、右ビラ及びマイク放送の内容は特定個人を誹謗したものであるから同九三条六号にそれぞれ該当する。

なお、右ビラ配付及びマイク放送は本社正門前道路で行なわれたものであるが、その状況からすれば会社施設及び敷地内においてなされた場合と同視すべきであり、また、これを自らなした場合と第三者に依頼した場合とでその責任に変るところはないというべきである。

そして、同1(二)記載のビラを貼付した行為は同九二条八号に、また、「野末やめろ恥を知れ」、「ダラ幹野末グループ反対」等のビラの内容は特定個人を誹謗したものであって同九三条六号に、それぞれ該当する。

さらに、同1(三)の行為は同九二条八号に、同1(四)(五)の違法行為により逮捕され、それが新聞に報道された所為は同九三条四号に、それぞれ該当する。

(二)  しかも、前記1(一)ないし(四)に記載した原告の交遊関係、活動内容自体及び原告が作成したビラ等印刷物の内容などを総合すると、原告は反社会的暴力集団である連合赤軍と密接な関係を持ち、かかる反体制の信条のもとに企業の破壊と職場秩序の紊乱を目的として、計画的に右一連の行動をなしたことが明白である。

(三)  被告は、以上(一)(二)の事情に、前記1(六)に記載した原告の勤務成績を総合考慮したうえ、このように企業内外において職場秩序をみだし、企業の破壊を企てる原告を企業内に留めておくことは到底容認しえないものと判断した。しかし、昭和四七年八月二九日開催の中央労使協議会において原告を円満退職させる旨の決定がなされたので、被告は原告に対し任意退職を勧告したが、これを拒否されたため、通常解雇事由を規定している就業規則二三条中六号該当として予告手当金を提供のうえ通常解雇するに至ったものである。

付言するに、通常解雇事由を規定する就業規則二三条、一、二号は従業員に心身的欠陥又は老衰のため企業経営上雇用関係を継続しがたい場合を言い、五号は事業の縮少等会社経営上客観的にやむを得ない場合のみならず、従業員の言動が職場規律、秩序維持の点からみて企業の円滑な運営を妨げる等これを解雇することが社会通念上首肯される場合をも含むと解すべきであり、従って、六号は、従業員が雇用契約上の重大な義務に違反する等前各号のいずれにもそのまま直接には該当しないが、生産性ないしは経営秩序維持の観点から、当該従業員を解雇することが社会通念に照らし、やむを得ないと認められる場合を指称するというべきであるから、原告が右六号に該当することは明らかである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1(一)  被告の主張1(一)の事実中、原告が被告主張の反戦グループと親交のあったこと、被告主張の日時、時間帯に本社正門付近の路上で訴外座間外四名が、被告主張のとおりの内容を有するビラを配布し、かつ、同内容のマイク放送をしたことは認める。その余の事実は否認する。

原告は、訴外座間に対してのみビラの配布だけを依頼したのであり、そのビラは二七〇枚ないし二八〇枚であった。また、ビラ及び放送は、特定個人を誹謗したり、組合定期大会の運営を阻害する意図ないし実害を伴うものではなかった。

(二)  同1(二)の事実中、ビラが前同様の意図を有していたことは否認する。その余は、認める。

(三)  同1(三)の事実は否認する。

被告主張のビラは、いずれも本来工場委員会の学習テキストたるパンフレットおよび討論資料であり、大衆的配付を目的としたものではなく、原告は参考のため休憩時間中に職場のごく親しい同僚二、三名に一〇部前後手渡したに過ぎないのである。

(四)  同1(四)、(五)の事実中原告が被告主張の日に坂口、永田をかくまったとの嫌疑で逮捕されたこと、右事実が中日新聞、朝日新聞、名古屋タイムズに報道されたこと、中日新聞、朝日新聞には原告が被告の従業員であることが明らかにされたことは認め、その余の事実は否認する。

(五)  同1(六)の事実は否認する。

2(一)  同2の事実中、被告就業規則に別紙のとおりの規定があることは認めるが、その余の被告の主張は争う。

(二)  就業規則九二条八号は、会社の敷地内におけるビラ配付、ビラ貼付及び放送に対してのみ適用されるものであり、また、それは行為者に対してのみ適用されるものであるから、会社の敷地外の行為、あるいはビラ配付の依頼者には適用されないことは明らかである。

また、被告が就業規則九三条六号に該当すると主張するビラ(〈証拠略〉)は、野末、加藤に代表される組合執行部の組合活動が労使協調路線に偏し、組合員の切実な要求を無視していることに対する怒りの表明と、このような執行部の打倒と、真に組合員の利益を擁護する執行部の再建の呼びかけを目的としたもので正当な組合活動であり、このような目的を有するビラの中で現執行部野末、加藤の名をあげ、会社の手先であるから当選させてはならない旨述べたとしても、正当というべきであって、特定個人を誹謗するものではない。

そして被告が、同条同号に該当すると主張するビラ(〈証拠略〉)について言えば、「野末やめろ恥を知れ」「ダラ幹野末グループ反対」の各ビラは、前記のように労使協調路線に偏し、労働者の利益を無視する組合執行部を弾劾するためのものであり、「生産をかく乱せよ」とのビラは、左翼労働運動においてよく使用される言葉であり、そのころ、昭和四七年五月一五日の抜き打ち的沖縄返還協定が結ばれる中で、厳しい労働条件に反対のためストライキに起ち上ろうとの趣旨で作成されたものであって、一つの思想としてとらえるべきでいずれも正当な組合活動であり、特定個人を誹謗したものでも、被告の生産体制の破壊を目的とするものでもない。

なお、被告が同条同号に該当すると主張するビラ(〈証拠略〉)について言えば、工場委員会内の学習テキストとしての討議資料にすぎず、それを工場委員会外の親しい同僚二、三人に一〇部前後手渡し、参考に供しようとしたものであり、職場秩序の破壊を目的としたものではない。

その内容も、工場委員会の政治的、思想的組合活動及び対権力闘争についての討論の素材にすぎない。「地方赤軍の拡大を通じて主力赤軍を拡大せよ」という文章は、毛沢東著作の引用であって、他意はない。

さらに、就業規則九三条(懲戒解雇条項)一三号は「刑罰法規に違反し、第一審にて有罪の確定判決を言渡され、爾後の就業に不適当と認められるとき」と規定されているところ、原告は前記逮捕された事件について嫌疑不十分で不起訴となったのであるから、右事件が同条四号に該当しないことは明らかである。もし、原告のような場合でも懲戒解雇事由になるということであれば、不当逮捕であっても、そのことが新聞に報道されれば懲戒解雇事由あることになり前記第九三条一三号は完全に死文化することになろう。

なお、同1(四)、(五)及び(六)の主張は解雇事由の追加であり不当である。

五  原告の主張

1  解雇は、適法な手続においてなされることが必要であり、使用者は解雇にあたり被解雇者に対し、いかなる行為が就業規則のどの解雇条項に該当するか具体的に説明することを要するものというべきところ、本件解雇は何ら解雇事由が原告に明示されておらず無効である。

2  本件解雇は、前記のとおり何らの解雇事由なくなされたものであるから、解雇権の濫用であり無効である。

3  本件解雇は、労組法七条一号、三号に該当し、また労基法三条に違反するものであって無効である。

(一) 組合は、国際金属労連日本協議会に加盟する全国自動車産業労働組合連合会(昭和四七年一〇月、全日本自動車産業労働組合総連合会部品産業労働組合協議会と改組)に所属している。

組合執行部は、組合結成以来生産性向上及び労使協調を基本的な考えとして組合活動を行っており、政治問題には消極的な態度をとっていた。

(二) 原告は、労働組合は、いわゆる労使協調路線をとるべきではなく、資本家階級に対立する労働者階級の階級的団結体の実体をもつよう団結形成されるべきで、それによって始めて労働者階級の利益を維持発展させ、労働者の政治的、社会的、経済的地位の向上をはかることができるとの考えに立って、沖縄問題等のいわゆる政治的課題にもすすんで取り組み、かつ、被告の合理化方針に反対し、大幅賃上げ獲得のため積極的に組合活動を展開してきた。

(三) 原告の組合活動歴

(1) 昭和四三年に犬山工場拡張にともなう名古屋工場の組合員の配転問題が発生し、配転は必然的に労働条件が悪化するところから原告は希望者以外の配転に反対する活動を行なったが、組合は反対闘争を放棄してしまった。

(2) 原告は、反戦平和の活動として、昭和四三年四月ごろ、日中友好協会(正統)犬山支部の結成に参画し、同年九月ころ、犬山地区の学生らと共に第一次反戦青年委員会を結成し、職場外で街頭における集団行動等の反戦活動をした。ついで昭和四四年九月職場の同僚で犬山工場の組合員訴外長谷川善一、同北野雅則、同岡田高行らと共に第二次反戦青年委員会(以下犬山反戦という)を結成した。

犬山反戦は、労使協調路線の組合幹部を批判し、真に階級的労働組合の団結体の蘇生を目ざす一環として、昭和四五年八月三〇日の組合定期大会において「組合定期大会へのアッピール」と題するビラ(証拠略)を代議員に配布したりした。

そして、昭和四四年九月から、昭和四五年にかけて発生した安保自動延長及び沖縄返還協定問題、ベトナム反戦、佐藤訪米等について労働者階級の利害に極めて密接な関連があるとして反対闘争を行った。

また、残業時間の長時間化(当時、昼勤の勤務時間は午前八時二〇分から午後四時一〇分、夜勤のそれは午後四時一〇分から午前〇時五五分であったが、残業各一時間が恒常化し、時に、これに加え二時間の残業が強制されることがあった)等の被告の合理化攻勢に対し、組合は何ら反対活動をしないので、原告はこれに反対するとともに、大幅賃上げ等を要求すべく活動した。

(3) 昭和四六年以降においては、原告は同年一月、犬山反戦を工場委員会と改め、組合執行部の労使協調路線と厳しく対決する組合活動を行った。

同年の春闘時には原告は訴外長谷川善一と共に、犬山工場において恒常的に行なわれていた残業を拒否する行動をとり、春闘の一時金闘争においては、組合執行部の妥結案に対して、原告の所属する組合犬山第二支部第二二ブロックの集会では、原告の働きかけにより全員一致でこれを否決し、執行部に痛打を与えた。

同年秋、組合執行部は年間労働時間の短縮案(隔週に週休二日とし、その代りに毎日の労働時間を三〇分延長する等)を提案したが、犬山第二工場の組合員の圧倒的多数はこれに反対し、原告も反対の署名活動を推進した。

(4) 昭和四七年も原告は、一時金闘争、合理化問題、深夜勤問題等に真剣に取り組んだところ、原告の右組合活動は他の組合員に広く理解されるようになり、同年七月二〇日ころ同僚組合員から職場委員長に推薦されるに至った。

(5) 被告の主張1(一)、(二)に記載されたビラ活動も前述したとおり、原告が組合執行部を批判し、その労使協調的体質の変革を意図してなしたものであり、さらに、原告は本件解雇に至るまで組合の職場集会、支部集会、そして組合定期大会に出席して必ず発言し、組合執行部の姿勢を批判し続けた。

(四) 原告は、昭和四七年八月三日、被告の主張1(四)記載の嫌疑で逮捕されたが、被告は原告の右逮捕後原告を除く工場委員会の構成員五名全員に対し、原告と関係し犬山反戦ないし工場委員会の活動をしてきたこと等を理由に退職勧告をなし、その結果、右全員が退職するに至った。

(五) 以上の事実によれば、本件解雇は被告会社の合理化政策及びこれに同調的な組合執行部の指導方針に対決する原告ら工場委員会の組合活動を被告が嫌悪し、原告の逮捕を機縁として、この際、工場委員会の勢力を一掃せんとの意図のもとになされたものであることが明らかである。従って、本件解雇は労組法七条一号、三号に該当し、また、労基法三条に違反するから無効である。

なお、原告の諸活動中、就業規則に触れる部分があったとしても、被告の施設管理権に対する侵害としては軽微であり、原告の活動は全体として正当な組合活動であるから、被告の不当労働行為性が阻却されるものではない。

六  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1  原告の主張1は争う。

2  同2は争う。

本件解雇は、前記のとおり正当事由の存するものであり何ら解雇権の濫用ではない。

3(一)  同3(一)の事実は認める。

(二)  同3(二)の事実中、原告が積極的に組合活動を展開したとの点は否認し、その余の事実は不知。

(三)  同3(三)の事実中、昭和四三年に原告主張の配転の問題が生じたこと、昭和四七年秋組合執行部が原告主張の提案をなしたが、犬山第二工場の圧倒的多数の組合員はこれに反対したことは認め、昭和四四、四五年ころ強制残業がなされたとの事実は否認し、その余の事実は不知。

(四)  同3(四)の事実は認める。

(五)  同3(五)の主張は争う。

4  原告は、被告会社は原告が労働組合の組合員であること及び組合の正当な行為をしたことを理由として解雇したものである旨主張するが、以下に述べるとおり原告がそのような組合活動を活発に行った事実はなく、又仮に原告が組合活動らしき行為をしていたとしても被告会社は全く知らなかったものであって、原告の右主張が理由がないことは明らかである。

(一) 原告は犬山工場拡張に伴う名古屋工場の組合員の配転問題が発生した際右配転に反対するため活動した旨主張するが、その活動内容たるや、原告と同じ職場にいた労働組合の職場委員が職場委員長であった鈴木勝久に「反対したらどうか」といった程度のものであって何ら組合活動として認められるものは存しなかった。

(二) 原告は大同メタル労組が安保、沖縄問題には全くふれようとしなかったことに抗して、同じ職場内の長谷川善一らと犬山反戦青年委員会を結成し、ベトナム反戦、安保自動延長阻止、沖縄解放等の闘いを積極的に行ったことを組合活動歴の一つとして主張しているが、右は労働組合活動ではなく反戦政治活動そのものであったことは原告の主張自体からも明らかである。

(三) 原告は昭和四四、四五年において強制残業があった旨主張しているが、そのような事実がなかった。

(四) 原告は昭和四六年一月犬山反戦委員会を工場委員会に改めて、大同メタル労組現執行部の労使協調路線と明確かつ厳しく対決するため労働組合活動を従前にもまして展開することを決意した旨主張するが、原告は従前から行っていた反戦活動を職場の中に持ち込まなければその活動の展開は望めないと痛感して工場委員会と改称したにすぎず、組合活動を展開したものではない。

(五) 原告は昭和四六年の春闘一時金闘争において労組執行部の妥結案について原告の属するブロック集会において原告の働きかけによって賛成零、反対全員という結果で否決させた旨主張するが、仮に右主張が事実としても原告の所属していた二二ブロックの人員は二〇名程度であったから組合員約一、七〇〇名を擁する大同メタル労組の執行部に痛打を与えたという原告の主張は全くの誇張にすぎない。

(六) 原告は昭和四七年には職場委員長に推せんされるまでに至った旨主張するが、組合の機関で原告を職場委員長に推せんしたことはなく、同僚の黒木国勝から話された程度のものであったにすぎない。原告が積極的な組合活動を意図するならば組合役員に立候補する方法もあったし、右黒木からの話に遠慮するなどということは全く理解できないところである。

第三証拠(略)

理由

一  原告請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。よって、以下に本件解雇の効力について判断する。

二  本件解雇に至るまでの経緯

(証拠略)を総合すると以下の事実を認めることができる。

1  原告の逮捕、勾留

原告は、「昭和四六年八月末ごろ、栃木県真岡市猟銃強奪事件で指名手配中の連合赤軍幹部坂口弘、同永田洋子を右事件の犯人であることを知りながら、犬山市羽黒所在の小屋に二日間かくまった。」との犯人蔵匿罪の嫌疑で、昭和四七年八月三日逮捕され(右事実はかくまった場所を除いて当事者間に争いがない)、ついで勾留されたが、同月二四日処分保留のまま釈放され、同年一〇月三〇日嫌疑不十分として不起訴処分となった。

原告の逮捕の事実は八月三日逮捕当日のNHKテレビニュースで放送され、かつ、中日、朝日、毎日、東京、名古屋タイムスの各夕刊紙上で報道され、特に中日、朝日、東京の各紙には、原告が被告の従業員であることも記載されていた(中日、朝日、名古屋タイムズ各紙の報道及び中日、朝日各紙には原告が被告の従業員である旨も記載されていたことは当事者間に争いがない)。

2  不起訴処分の理由

捜査当局の強制捜査において、原告は、前記小屋(原告が後記工場委員会の活動拠点として他から賃借中の小屋)において、男一人、女一人を宿泊させたことは認めたものの、それが坂口、永田両名であるとは知らなかった旨犯人蔵匿の犯意を否認しているのに、右犯意の裏付けとなる人的、物的証拠が十分でないため捜査当局は、嫌疑不十分として不起訴処分としたものであった。

3  新聞報道の内容

前記各新聞紙上には、原告は、昭和四三年末ごろ被告の従業員数人と革命左派系の過激集団である犬山反戦グループを結成していたこと、坂口、永田は昭和四六年八月下旬ごろ、指名手配中に資金集めのため、中京安保共闘の世話で愛知県に潜入し、同共闘のメンバー山本順一宅を訪れたが、適当な潜伏場所がなかったので、山本順一から同共闘のメンバー寺林真喜江の知り合いで、同共闘の結成式にも出席し、これと共闘関係にある前記犬山反戦グループのリーダーである原告に依頼があり、原告の手配で、坂口、永田が前記小屋にかくまわれたこと、これら事実は当時長野県警で調べを受けている寺林の供述で判明したこと、大要以上の記事が掲載されていた(〈証拠略〉)。

4  原告が組織した犬山反戦ないし工場委員会

原告は、反戦平和を至上の命題とし、加えて労使の対立を階級的対立ととらえ、反戦平和運動といわゆる階級的労働運動を共に推進することにより、職場ひいては社会全体を変革せんとの考えの下に、昭和四三年九月犬山、小牧地区の反戦活動グループと共に犬山反戦(一次)を結成し、ビラまきをしたりしてベトナム戦争反対、安保条約廃棄等を訴える政治活動をなし、ついで、昭和四四年九月末ごろ、被告犬山工場の同僚訴外長谷川善一、同北野雅則、同岡田高行ら約五、六人と犬山反戦(二次)を結成し、同様の政治活動をなし、昭和四六年一月にこれら活動の対象を職場内に向けるべく、犬山反戦(二次)を工場委員会と改称した。

これより先、原告は、昭和四三年三月、日中友好協会(正統)に加入し、犬山市における中国展の開催に関与し、他の会員とともに、同年五月に同協会犬山支部を結成していた。前記寺林は、もと某女子短大の部落問題研究会の学生で、犬山反戦(一次)当時に原告と知り合い、原告の影響で日中友好協会に加入した。

5  連合赤軍、京浜安保共闘、中京安保共闘

いわゆる連合赤軍とは、赤軍、京浜安保共闘(前記坂口、永田ら)の各グループと、他に中京地区にあった中京安保共闘グループのメンバーの内、前記寺林(日中友好協会に加入後、これと意見を異にしてこれから脱会して加入)、前記山本順一、後記加藤倫教等赤軍の活動に共鳴したもの達が昭和四六年七月ごろ連合して結成した団体の名称である。

6  犬山反戦(二次)ないし工場委員会の非公然活動の内容

(一)  昭和四五年八月三〇日被告本社食堂において開催された組合定期大会当日被告主張の五名が、被告主張のとおりの内容を有するビラ(〈証拠略〉)をその主張の時間帯に本社正門付近の路上で大会入場者に配布し、かつ、同所で同内容のマイク放送をした(右事実は当事者間に争いない)。

右ビラは、原告が犬山反戦(二次)の仲間で職場の同僚である訴外長谷川善一と共にあらかじめ約三〇〇枚作成し、その配布方を日中友好協会の会員訴外座間俊太郎に依頼したものであった。訴外座間と行動を共にした者の中には、中京安保共闘のメンバーである前記加藤倫教及び寺林(右両名は、いずれも被告主張のとおりの刑事事件のため裁判中)がいたが、同人らはいずれも当時はいまだ連合赤軍に加入していなかった。

右マイク放送は、食堂における組合定期大会の議事の妨害になるとして、組合関係者から中止方を要求され、訴外座間らはマイク放送を中止し、退去した。

当時、組合ないし被告は、これらビラまき及びマイク放送に原告が関与しているとは全く知らなかった。

(二)  原告ら工場委員会の会員は、昭和四六年三月から昭和四七年五月ころまでの間、被告本社、名古屋工場、犬山第一、第二工場及び岐阜工場付近の電柱、隣家の塀、橋桁、会社案内掲示板等に約二〇回にわたって、「ダラ幹打倒、組合再建」、「ダラ幹野末グループ反対」、「野末やめろ恥を知れ」等執行部批判のもの、「省人化、合理化反対」、「要求貫徹ストに起て」、「生産をかく乱せよ」等会社の方針に反対するもの、さらに「四次防予算粉砕」、「成田空港粉砕、軍国主義反対」等政治的スローガンを掲げたものなど数十種に及ぶ工場委員会あるいは大同メタル工場委員会名義のビラ(〈証拠略〉)を貼付した。そして、右ビラ貼付活動の始めころ一、二回、本社名古屋工場の塀や本社正門前の社名表示板上にも貼付したことがあった。これらのビラは原告らが一種類について約二〇〇枚作成し、人目をはばかり、非公然に夜間に貼付したものであった(原告が、右時期に右内容のビラを貼付したことについては、当事者間に争いがない)。

(三)  原告は、昭和四六年八、九月ころ、被告犬山第二工場の職場の同僚数名に、かねて工場委員会内の学習のため討議資料として作成していたビラ(〈証拠略〉)の一部を終業後、被告駐車場等において配付した。

右ビラ中には、「地方赤軍の拡大を通じて主力赤軍を拡大せよ」、「オヤジ(重役)恥を知れ、うでをくんでふんぞりかえって立っているお前のまえで十六、七の少年がまっくろになって働いているのを何年平気で見ていられるだ」「革命闘争、人民解放、民族解放の血の闘争が生み出した人民の尊い遺産」、「プロレタリヤ独裁の旗を高々と掲げ、前進する日本革命を主体的にきりひらき、前衛党としての任務を果すため緊急、かつどうしてもやり遂げなければならない課題、それは革命の激動期を指導するプロレタリヤ革命派の形成である」、「生産点支配秩序のマヒ、その持続化」、「対権力闘争、逮捕後とくにきびしく続けられる敵権力の心臓を黙秘に徹して突け」、「逮捕された同志が我々とのつながりを常に、ハダ身に感じ内部での闘いを、充分に闘えるような組織建設を日ごろから続けねばならない。逮捕された同志が内部で孤独感に落(ママ)入らないような闘いを進めねばならない」、「プロレタリヤ絶対革命の勝利をかちとれ」等の記載があった。このビラ配布も、当時被告は全く知らなかった。

7  原告逮捕後、工場委員会のメンバーが誰であるのか、これらの者のした前記ビラ貼付の所為及び前記組合定期大会における原告の依頼に基づく寺林らのビラ配付の所為等が、被告の調査によりすべて判明するに至った。

そこで、被告は同年八月二一日、人事委員会(事実上の賞罰委員会、労使双方の委員で構成)を開催し、原告の処分につき討議したところ、その結論は次のとおりとなった。

前記二6(二)のビラの内「生産をかく乱せよ」、「省人化、労働強化反対」、「合理化、労働強化反対」は具体的に企業の破壊活動に着手した行為であり、生産の正常な運営が阻害される虞れが十分にある。右ビラの内「野末やめろ、恥を知れ」、「ダラ幹野末グループ反対」は、労使間の信頼関係を破壊する目的で特定個人を誹謗し、侮辱したものであるから、就業規則九三条六号に該当する。

原告に関する前記新聞報道は、被告会社従業員ということで被告名と共に広く報道された点において、就業規則九三条四号に該当する。

以上の原告の所為は、懲戒解雇相当であるが、本人が希望するときは自己都合退職を認める。なお、原告について直接意見も聞いた上最終的に決定する。

右委員会においては、原告の日ごろの勤務成績欠勤日数等については、具体的資料に基づいて論議された形跡は存しない。

原告が釈放されて後八月二五日ころ、これらの原告の所為について、被告は直接原告に問いただしたが、原告は男一人、女一人泊めたことはあるが、その者が坂口、永田とは知らなかったとのみ答え、ビラ貼付等の所為については、答える必要がないとして応答せず、また、任意退職の意思はないと言明した(原告以外の工場委員会のメンバー全員六名は、そのころ退職勧告を受け任意退職してしまった)。

そして、同年八月二九日開催の中央労使協議会においても、人事委員会の右結論が了承された。

そこで被告は、同月三一日、原告に対し任意退職の意思を確認したが、原告はその意思はないと返事したため、即日本件解雇をするに至った。

8  原告の勤務内容

(一)  原告が所属していた被告の犬山第二工場では、中型及び小型の自動車エンジンのベアリングメタル(平軸受け)を生産しており、被告会社における自動車関係製品の生産量の四五パーセントを占めていた。被告会社では、自動車会社からの完全受注によって、かつ各自動車生産ラインと直接結びついて右メタルを生産する方式をとっているため、注文先の自動車会社の都合次第で残業を要する場合が多く、犬山工場では一、二時間の残業が恒常的となっていた。

原告は、昭和四三年一一月二六日、犬山工場に配属されて以来、製造課機械第二班ないし仕上班に所属し、コイルをプレスして油溜加工等の工程を経て出来上ったメタルの原型を手動式の仕上専用機を用いて図面通りの厚さに削ってゆく肉厚仕上げの工程にたずさわっていた。そして、新型のメタルに削るときは、まず右メタル切削に適合する工具を機械に取り付けて調整し、芯出し用メタルで仕様書通りに試作して、試作品に対する班長の検査を受ける段取りと称する手順を経たうえで、生産にとりかかることとなっていた。従来の型のまま生産するときは、右段取りの手順を踏むことなく直ちに生産を開始することができ、一日実働八時間として手動式の機械を用いた場合の標準生産量は約三〇〇〇個であった。また、手動式の機械では二〇個生産する毎に肉厚の誤差(一ミリメートル一〇〇〇〇分の三までしか許されない)の有無を点検する決まりとなっており、もし許容範囲を超える誤差の製品を発見すれば、それから逆(ママ)上って誤差を生じたかぎりの製品を削り直す手はずをとって、不良品の発生を可及的に抑えていた。

原告は、犬山工場の稼働期間中、特に上司から他と比べて能率が悪いとか不良品の発生率が高いとかの注意を受けたことはなく、むしろ班長からしばしば予定外の残業を依頼されていた。

(二)  一方、原告の昭和四四年ないし昭和四六年までの夏季及び冬季各賞与評定(賞与支給時にあわせて行なわれる人事考課であり、毎年四月の昇給時にも用いられるもので、A・A’・B・B’・C・C’・D・D’・Eの九段階評価である)並びに同四七年の夏季評定は、昭和四四年、夏季D、冬季D、昭和四五年夏季C’、冬季D、昭和四六年夏季E、冬季D’、昭和四七年夏季D’であった。

(昭和四九年度後期の評定では被告の全従業員(一九八〇名)中Eは約四名、D’約一八名、D約七〇名、C’約二八〇名で、原告在社当時も評定の結果はほぼ同程度であったと思われる)

また、原告は昭和四五年には二三日(うち有給休暇及び慶弔休暇日数は九日、以下同じ)、昭和四六年には二五日(一一日)、昭和四七年には二〇日(一二日)の欠勤をしており、他の従業員に比べその回数が多かった。

右認定に反する(人証略)の証言部分は、にわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠は存しない。

三  本件解雇の効力

以上に認定した事実に基づいて本件解雇の効力について判断する。

(懲戒事由の存否)

1  被告の就業規則中減給、出勤停止、役位剥奪の懲戒処分事由として九二条八号が、懲戒解雇事由として九三条四号六号が、普通解雇事由として二三条一ないし六号が存すること、これら条項の文言は、いずれも被告主張のとおりであることは当事者間に争いない。

2  そこで考えるに、前記二6(一)の原告の依頼による訴外座間らの本社正門付近路上におけるビラ配布の所為は被告の施設及びその敷地内でなされたのではなく、また、これによって被告の業務に支障を及ぼしたということもないのであるから、同規則九二条八号には該当しないし、ビラの内容も文言自体に照らし、労使協調路線にある執行部批判を目的としたことは明らかであって、ことさらに特定個人を誹謗中傷することを目的としたものと認めることはできないから、ビラの内容が同規則九三条六号に該当するとみることは到底できない。

仮りに、マイク放送が原告の依頼に基づくものとすれば、マイク放送もビラと同様の理由で、同規則の前記各号に該当しないことは明らかである。そして右所為が、組合定期大会開催時になされたことから、右大会の運営に一時的な支障を来たしたことは前記のとおりであるが、これは組合の組合員に対する対内的統制権により処理せらるるべきことがらであって、使用者たる被告の関知すべきことがらでないというべきである。

3  前記二6(二)のビラ貼付所為について

これらビラは、いずれも原告ら工場委員会のメンバーが主として夜間に非公然活動として行ったもので、執行部批判、会社の合理化方針批判、政治的スローガンの三種に大別されるが、貼付場所は殆んどが被告敷地外であり、その内容もビラの文言自体に照らし、ことさらに特定個人を誹謗中傷することのみを目的としたものとは認められない。従って、原告のこれら所為は、同規則九二条八号、九三条六号に該当しない。

右ビラの執行部批判を目的としたビラの内「野末やめろ恥を知れ」、「ダラ幹野末グループ反対」等は、場合により組合の統制権行使の対象となることはあるであろうが、このことは、被告の関知すべきことではあるまい。

もっとも、当初一、二回本社名古屋工場の塀や本社正門前の被告社名表示板にビラを貼付した所為は形式上は、同規則九二条八号に該当するが、同号違反をもって問責するに足りる程の違法性は存しないというべきである。

4  前記二6(三)の所為について

右ビラ配布は、原告らが終業後職場の同僚数名に学習のための討議資料として作成したビラを配布したというにすぎないから、これによって職場秩序をみだすとは言えず、右所為は同規則九二条八号違反をもって問責する程の違法性は有しない。

5  前記二1の所為について

被告の従業員たる原告が犯人蔵匿罪の嫌疑で逮捕され、そのことが広く報道されたけれども、原告は、結局嫌疑不十分として不起訴になったのであり、他に原告が犯人蔵匿罪の犯意を有していたと認むべき証拠がない以上、原告には、同規則九二条八号の責任事由を認め難いから、これら事実をもって同条項に該当するとなすことはできない。

6  以上を要するに原告の各所為には、就業規則上懲戒事由に該当するものはないということになる。

(通常解雇事由の存否)

1  通常解雇事由を規定する就業規則二三条六号の趣旨は被告主張のとおりであり、若し、原告が企業秩序維持の観点から解雇されてもやむを得ないと認められる程度に従業員としての適格性を欠く場合は、本件解雇は有効とされるべきことは多言を要しない。

2  そして被告は、原告の各所為を総合して観察すれば、原告は反社会的暴力集団である連合赤軍と密接な関係をもち、企業の内外において企業秩序の破壊を目的として行動する者であり、その平素の勤務成績の劣悪なことと相まって、従業員としての適性に著しく欠ける趣旨の主張をするので考えるに、被告の右主張に副う(証拠略)はたやすく信用し難く、他に右主張を維持するに足りる的確な証拠は存しない。

もっとも、先に認定したとおり、原告は不起訴となった犯人蔵匿罪につき、男一人、女一人泊めていることは認めているのであるから、犯意の点は別として連合赤軍の一味である坂口、永田を泊めたことは客観的な事実として認められ、これに先に認定した原告と中京安保共闘の一員である寺林との間柄ないし組合定期大会時におけるビラ配布には、寺林のみならず、同じく中京安保共闘の一員である加藤倫教も参加している事実や、原告らの配布ないし貼付した前記各種のビラの中には「生産をかく乱せよ」、「地方赤軍の拡大を通じ主力赤軍を拡大せよ」、「革命闘争、人民解放、民族解放の血の闘争が生み出した人民の尊い遺産」、「生産点支配秩序のマヒ、その持続化」、「逮捕された同志が内部で孤独感に落ち入らないような闘いを進めねばならない」、「プロレタリヤ絶対革命の勝利をかちとれ」等々一見すると連合赤軍の同調者であるかのように思われる文言の多多存することが否定できない事実及び右各ビラはすべて非公然で行なわれた事実等を総合すると、被告が原告を企業秩序の破壊のみを目的とするもので従業員としての適格性に著しく欠けるものと考えたについては、無理からぬものというべきである。

しかしながら、前記のとおり、犯人蔵匿罪については、犯意の立証不十分として不起訴となったのであるから、新聞報道にあるとおりの山本、寺林を介しての原告と連合赤軍とのつながりについては、この点について寺林らの捜査当局に対する供述調書等確実な証拠でもない限り、これを認めるに由ないし、原告の組織していた犬山反戦ないし工場委員会はビラ活動しかしておらず、過激派集団とは言い難い。

さらに、前記各種のビラの内容は、(証拠略)によれば、毛沢東語録からの抜書部分もあることが認められ、全体としてみれば抽象的短絡的な文言の羅列にすぎず、これら具体性のない短絡的な文言から直ちに原告が暴力による企業破壊を現実に企てていたと認めることは困難であり、また、たとえ被告の従業員がこれらのビラを読んだとしても、このような具体性のないビラによって従業員の動向が左右されるおそれはないというべきである。

そして、先に認定した原告の勤務成績は決して良好とは言えないが、さりとて従業員として著しく適格を欠く程の成績とは認められない。

これを要するに、原告の一連の所為の中には当を失した点も多多存し、原告も反省すべき点は少なからずあるが(自己の思想信条が正しいと信ずるならば、少くとも行為者が誰であるか分らない方法によるビラ活動はすべきではあるまい。なお、(証拠略)により認められる原告が解雇後配布したビラの中にある不穏当な文言ないし解雇後にした組合幹部に対する深夜電話等も、十分反省すべき点である)、いまだもって、これを解雇しなければならないほど従業員としての適格を著しく欠くとは認められず、原告は就業規則二三条六号に該当しない。

3  してみると、その余の点について判断するまでもなく本件解雇は無効であるから、原告は被告に対して雇用契約上の従業員としての地位を保有しているというべきである。

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 戸塚正二 裁判官 島本誠三)

別紙 被告就業規則

第九二条 次の各号の一に該当するときは減給または出勤停止あるいは役位剥奪に処する。ただし、情状により譴責にとどめることがある。

(一号ないし七号略)

八 会社の施設およびその敷地内において、会社の許可なく掲示および貼布(貼付の誤記と考えられる)または図書印刷物を配布し、または放送もしくは演説をしたとき。

第九三条 次の各号の一に該当するときは、懲戒解雇に処する。ただし、情状により減給、出勤停止または役位剥奪に止めることがある。

(一号ないし三号略)

四 故意または重大な過失によって会社の信用を失墜したとき。

(五号略)

六 他人に対し、正当な理由なく誹謗または重大な侮辱をしたとき。

第二三条 会社は社員が次の各号の一に該当するに至ったときは解雇する。

一 精神または身体の障害により業務に堪えないと認めたとき。

二 老衰のため業務能率が著しく衰えたと認めたとき。

三 懲戒解雇の処分が決定したとき。

四 打ち切り補償を行なったとき。

五 事業経営上やむを得ない都合のあるとき。

六 その他前各号に準ずる程度の事由あるとき。

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